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10月号 「頭部打撲にCTは必要?」

 


頭部打撲は日常的にいろいろな場面で遭遇する外傷です。原因は交通事故、転倒、転落、運動中の衝突など様々です。その際に必ずCT検査は必要なのでしょうか?外来で頭部打撲の患者さんを診察する際に患者さんから“CTやMRIは必要ないですか?”、特に小児の頭部打撲や交通事故の場合は“検査をしてください”と言われることがよくあります。しかし我々は頭部打撲をした患者さんすべてに検査が必要だとは考えていません。ではどのような時に必要か?まずは受傷機転が問題です。バイク事故や高所よりの転落などで起こる高エネルギー外傷は検査の対象になります。次いで症状より考えることが必要です。意識障害がある、麻痺や痙攣などの神経症状があるなどの場合はもちろんのこと、頭痛、繰り返しの嘔吐、受傷時の記憶がないなどの症状がある場合には積極的にCT検査を行うことが必要と考えます。CTによる放射線被曝や医療コストの増大が問題視されている今日、頭部打撲があったというだけでは必ずしも検査は必要でないと理解していただくことが肝要と考えます。しかし受傷時にそのような症状がないからと言ってずっと異常の出現が否定されるわけではありません。私は20歳の女性がスキーの転倒で頭部打撲を受傷され受傷時のCTでは異常がなかったが一年後に頭蓋内に出血が生じたという症例を経験したことがあります。重要なのは症状の経過だと考えます。受傷時の症状が経過により悪化すれば検査を受けましょう。受傷時に症状がない、または検査で異常がないからと言って安心できるわけではありません。ご自身の体を守るためにも頭部打撲についてよく理解をし、適正な検査を受けるようにしましょう。

 


一般社団法人右京医師会 河端 博也

9月号 「尿検査は大事」

 


大文字の送り火のあと、夏の終わりの台風が到来しては去るごとに、私たちの京都では、少しずつ蒸し暑さがやわらぎ、空は高くなり、秋風が忍び込みます。
夏の厳しい暑さで、おしっこも出ないほどの高度脱水症となり、腎臓を傷めて緊急入院される患者さんが毎年大勢おられます。秋が始まり涼しくなると、脱水症で腎臓を傷める(糖尿病などにより何年もかけて慢性的にゆっくり悪くなる場合と違って、脱水症だと数日で急に悪くなることが多いので“急性”腎障害といいます)患者さんの数も減り始めるので、腎臓内科医は少しホッとします。
腎臓は、背中の真ん中あたりに、ご自身の握りこぶしくらいの大きさで左右に1つずつあります。腎臓は沈黙の臓器とも呼ばれます。腎機能が少しくらい低下しても、自覚症状はほとんどありません。おしっこが出ない等、困った症状が出現するときには、腎機能が低下してしまっていることも多いです。
腎臓の不調をいち早く察知する、簡単で痛くない検査方法があります。尿検査(検尿)です。 尿は本来無菌で、血液や蛋白などの混じりけがありません。細菌や、血液、蛋白が混じっていると言われたら、腎臓で何か起きているかもしれません。
学校健診や健康診断で、細菌尿や血尿、蛋白尿を指摘されたら、どうか早めに医療機関を受診してください。

 


一般社団法人右京医師会 泉谷 梓

8月号 「おねしょと夜尿症」

 


小学生の時に見た夢で今でも覚えているものがあります。ただトイレに行っておしっこをするという夢なのですが、当時私は度々おねしょをしていました。おねしょをするたびに母親に「何度言ったらわかるの。」と叱られていました。その夜は寝ていても尿意を感じたようで、「トイレに行かなくては。」と思ったわけです。そして、トイレに行くのですが、なぜかそこは学校でもなく家でもなく幼稚園のトイレでした。でも、そこはトイレに間違いありませんでした。そして、安心しておしっこをしたのですが、何か違和感が・・・。 その後のことはよく覚えていませんが、中学生の時はおねしょをしていませんでしたので、小学校を卒業するまでには治っていたようです。おねしょの思い出は、今では人に話すこともできますが、子どもの頃はつらく、恥ずかしい思い出でした。昔は、おねしょはおねしょで、「夜尿症」という言葉もありませんでしたし、もちろん、対処法や治療法も知られていませんでした。
5歳以上で1か月に1回以上の夜尿が3か月以上続く場合、「夜尿症」といわれます。7歳の子どもの1割くらいに夜尿症があります。主な原因は、膀胱の容量が小さいことと、抗利尿ホルモン(尿の量を少なくする)の分泌が不足していることです。成長とともに治っていきますが、治らずに大人になる人が1%前後あります。お子さんの夜尿症に対する意識にもよりますが、自尊心が低下することもありますので、小学校低学年あたりで治療について考え始めるとよいでしょう。はじめに、水分の取り方、夕食の内容、冷えや便秘対策など生活習慣の見直しをします。尿の検査もします。改善がみられない場合に、お子さんやご家族の意向を伺ったうえで薬物療法やアラーム療法といった治療について考えます。以上は「夜尿症」治療の一般的な流れです。小学生になっておねしょのことを気にするようになったり、おねしょの回数や量が減らない時は、かかりつけの小児科医に相談されるとよいでしょう。

 


一般社団法人右京医師会 須藤 茂行

7月号 「足が変?」

 


年を重ねると、だんだん、自分の足の手入れは難しくなります。妊婦さんや、膝・腰の疾患のある方も同様です。「足が変?」だと気付いても、詳細な部位や状態を、自分では観察しにくくなります。
足の異常は、「下り坂を歩いた」というような日常的な行動や、靴の問題(新しい、滅多に履かない、サイズが合わない等)が切欠(きっかけ)になる場合もありますが、他の部位の外傷・疾患が悪化の要因になる例もあります。糖尿病・脳血管などに伴う麻痺・シビレのある方においては、「いつからなのかわからない」「痛くないから」といって、かなり時間が経ち悪化してから受診される例も少なくありません。何か変だと感じたら、すぐに、受診してみましょう。
足の形が他の人と違う、昔のケガの痕(あと)が痛むようになってきた、これは正常なのか?どうすればよいのか?どの診療科に行くべきなのか?このまま放置してよいのか?放置するといずれどうなるのか?…という方はたくさんおられます。
手術だけではなく、悪化しないことを目標にすることが最も大事な時期・状態もあります。まず、皮膚科・形成外科・整形外科やかかりつけの医師に相談してみましょう。

<自己処置の注意点> 
◎絆創膏を巻き付けると血流が悪くなり治癒を遅らせます。
◎痛みがなくても、「痛みがわからなくなっているだけ」ということもあり、「痛みのある・なし」だけで状態は判断できません。
◎防水フィルムや高価格帯の絆創膏は、靴擦れの予防・応急処置などには有用ですが、感染している創(きず)には不向きで、使い方が難しいものです。
◎創(きず)は多くの場合、シャワーで洗うことが推奨されますが浴槽には浸けません。風呂場から出る前に、創(きず)を石鹸で洗いシャワーでよく洗い流して下さい。
(※入浴時の注意点は、必ず、主治医に確認して下さい)
◎マメ・タコを削っても同じ部位に再発する場合は、原因をみつけて再発予防策を講じることが大切です。

 


一般社団法人右京医師会 内田 敦子

6月号 「大人になってから、発達障害に気がつくのはなぜ?」

 


発達障害は、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)など、生まれつきみられる脳の発達の違い・アンバランスによるものです。本人のやる気や努力不足、保護者の育て方などによって起こるものではありません。小児期の一時的なものではなく一生を通じて存在しうるものです。
「大人になってから、突然、発達障害になる」というわけではありません。
多くの場合、発達障害の特性は子供の頃から現れますが、子供の頃は単なる個性の一つとして捉えられたり、周囲から手厚くフォローされたりするため、本人も周囲の人も発達障害の特性であるとは気づかずに大人になることがよくあります。
しかし、進学や就職で社会に出ると、人間関係は複雑になり、様々な相手と曖昧さを含んだコミュニケーションをとることや、相手の表情からすべきことを察したり周囲に合わせて行動するといった「空気を読める」ことが要求されるようになります。
また、社会的制約や責任が増えて、遅刻やうっかりミスが許されにくくなります。こういった中で、潜在的に持っていた発達障害の特性が浮かび上がってきて人間関係や仕事でつまずいてしまい、その時に初めて発達障害の可能性に気付くことになります。
発達障害の特性から生活や仕事の中でつまずいたり、困難が続いて生きづらさを感じたりしてストレス状態が続くと、「うつ」になったり、不安が大きくなりすぎたり、時には「ひきこもり」となってしまうこともあります。
発達障害の特性は欠点になるとばかり考えられがちですが、環境や場面によっては長所にもなり得ます。自分の特性に気付いて少し工夫したり、その特性を周囲に伝えて支援を受けたりすることで、気持ちが楽になったり、自分らしくスムーズに社会生活を送れる可能性があります。苦手なことを工夫することによって生きやすくなることや、得意なことで大きな力を発揮できるようになる人も少なくありません。
「もしかしたら自分は発達障害なのかもしれない」と思ったときは、専門の相談窓口・心療内科・精神科へ相談しましょう。相談をすることで、専門家によるサポートや行政による就労支援を受けることができるかもしれません。

 


一般社団法人右京医師会 杉山 タカネ

5月号 「甲状腺と昆布」


「昆布は身体に良いと思って、昆布でご飯を炊いたり、出汁を取り終わった昆布を細かく刻んで食べていました。」「昆布だしを毎日飲んでいます。」
以前、勤めていた病院で、このような話を患者さんから伺うことがありました。確かに昆布は低カロリーでミネラルや食物繊維も豊富で身体に良いと言われていますが、「ヨウ素(=ヨード)」もたくさん含むことが知られています。(※葉酸とは全く別ものです)ヨウ素を過剰に摂取した場合、甲状腺機能低下症になる可能性があり、その場合、ヨウ素摂取を減らすことで甲状腺機能が改善することが多いです。(ただし他に原因があって甲状腺機能が低下している場合はヨウ素制限のみで改善しない場合もあります。)
厚生労働省の食事摂取基準 (2020年版)によると成人のヨウ素摂取の耐容上限量 (健康障害が起こらない上限量)は1日あたり3mgとされています。昆布には特に大量のヨウ素が含まれており昆布100gあたりヨウ素は約200mg、昆布だし100gあたりヨウ素は約5mg含まれています。このように、昆布を常食している場合には、ご自身が思っている以上に摂取過多になっている場合があるので注意が必要です。昆布以外の海藻類にはそこまで多くヨウ素は含まれていませんので、普通に摂取するのは問題ありません。食品ごとのヨウ素含有量が心配な方は文部科学省の食品成分データベースを参照頂けたらと思います。(表示成分選択で「ヨウ素」を選択してください)(https://fooddb.mext.go.jp/index.pl
一方、ヨウ素は海藻類や魚介類に十分量含まれており、極端な食事制限をしていない限り日本人がヨウ素不足になることは稀です。

 


一般社団法人右京医師会 中泉 伸彦

 

4月号 「4月病」


4月に起こりやすい病気をGoogleで検索すると“4月病”が上位表示されてきます。これは俗称となりますが、これをテーマに執筆させていただきます。 昨今様々な疾病が存在する中、その根幹となる“からだ”の状態そのものが、この時期は特に崩れやすくなるといった概念です。
この要因としてはまずは寒暖差による気圧の変動が大きいこと。また、新しい職場や仲間、引っ越し等周辺環境が変わることで心の疲労をともなうこと。その双方で自律神経が乱れやすくなります。(実際には交感神経優位になりやすいといった報告があります。)
それではこの時期をどう乗り切るのが望ましいでしょうか?答えはやはり交感神経に対峙するには副交感神経を優位にする行動が望ましいでしょう。具体的には睡眠の確保と朝昼晩の食事を行うことです。睡眠は決まった時間に寝て、決まった時間に起きること、食事はなるべく同じ時間に行うことが重要です。これらが体内時計が整い、自律神経のコントロールがしやすくなります。
また、交感神経の賦活化の主因となるストレスを意識することも大切なことと考えます。ストレスが溜まりやすい時期ですので、気づかないうちに膨大化してしまいます。その原因を冷静に判断することで対応の仕方も変わってきてうまく往なすこともできます。 この時期にしっかり対応し、後の“5月病”に陥らないように心がけましょう。

 


一般社団法人右京医師会 清水 導臣

 

3月号 「ドライアイは煩わしい」

 


空気が乾燥していると、眼の表面から涙液が蒸発しやすくなります。そのため、湿度が低下する秋~冬の時期は、ドライアイの症状が現れやすくなります。また、冷暖房の効いた部屋も湿度が低下するため、注意が必要です。
人は無意識下でも、3秒に1回の頻度でまばたきをします。しかし、目の前の作業に集中していると、まばたきの回数は減少します。その結果、涙液の蒸発が進行するうえに、分泌量も低下します。近年では、パソコンやスマートフォンなどの普及によって、VDT症候群(デジタル機器の操作によって、疲れ目やドライアイを引き起こす症候群)になっている人が増加傾向にあります。 また、まばたきをした瞬間、まぶたをきちんと閉じることができていない人もいます。
まばたきをきちんと行わないと、眼球表面の下の方が乾きやすくなります。この場合は、睡眠時に薄目を聞くクセがある人や、コンタクトレンズを普段装着している人に多いと考えられています。
残念ながら、ドライアイは治療を続ける必要がなくなる「完治」が得られる病気ではありません。 点眼などの治療を続けることで、生活の質を落とさないようにすることが治療の目的です。 ドライアイ治療は「悪化要因の除去」と「点眼薬による水分の補充」が重要です。
日ごろから「まばたき」を心がけて、不足している涙液の成分を補うための目薬などをさし続けた場合にのみ、症状をおさえることができるやっかいな病気です。

 


一般社団法人右京医師会 富井 聡

 

2月号 「スギ花粉症をなおす方法があります ~舌下免疫療法について~」

 


今や国民病といわれる春の花粉症の季節が近づいてきました。新型コロナもまだ根強くありますが、野外でのマスク着用は基本的には不要と考えてよいと思います。…が、花粉症の方にはむしろマスクが手放せない時期となっています。花粉症対策にはまずマスクなどで暴露を少なくし、次に薬ですが、今回ご紹介するのは舌下免疫療法といい、アレルギーの体質を改善する治療です。アレルギーの原因物質のエキスの薬を下の裏側に1分置くのを毎日、長期間続けることでアレルギーを軽減することができます。現在スギとダニのアレルギーに対して治療薬があります。治療期間が3年から5年と長いのが欠点ですが、多くの方は1年ごとに効果を実感されており、花粉症の時期でも薬なしで大丈夫だった!という方も多いです。治療開始時期は花粉の飛散時期を避けて、飛散の落ち着いた6月から、まだ花粉の飛んでこない12月くらいまでに始めるのが一般的です。今シーズンは薬で乗り切り、来シーズン以降に向けて舌下免疫療法を検討するのがおすすめです。
ただ実は、非常に残念なことに、治療薬の需要が増えたため昨年からスギ舌下免疫の開始時の治療薬の生産がほぼストップしており、薬局に入ってこない状態がつづいています。私としても患者さんに勧めているのですが薬がないので始められない、という歯がゆい状態です。いずれ薬の流通は回復するはずですので、今回は舌下免疫という治療方法があることを知っていただければと思います。

 


一般社団法人右京医師会 神谷 透

1月号 「結核は昔の病気?」

 


正岡子規、石川啄木、樋口一葉、中原中也・・・
美しい句、詩、文学作品を残しながらも、若くして亡くなった方々です。その命を奪ったのは、結核です。結核は1950年代半ばまで、死因の上位を占め「亡国病」と恐れられる病気でした。
その後は、医療の進歩や栄養状態、生活水準、公衆衛生の向上によって着実に減少し、今では日本も西欧諸国と同じように「低まん延国(結核が少ない国)」と言われるようになりました。しかし、今でも日本国内で1日に28人の新しい結核患者が発生しています。その約4割は80歳以上の高齢者です。結核菌に感染しても、8割以上の人はいったん自分の免疫力で菌を抑え込みますが、加齢や病気で免疫力が落ちると、結核菌が活動を始め症状が現れます。(これを発病と言います。)今、結核を発病する高齢の方の多くは、結核が大流行していた1930年~1940年ごろに感染されたと推測されます。
結核に多い症状は、咳・痰・微熱・身体のだるさなど、かぜに似ています。しかし、かぜならだいたい1週間以内でおさまるのに比べ、結核はそれらの症状が長く続きます。症状が2週間以上続く場合は、受診するようにしましょう。
なお、高齢の方は咳などの症状が出にくいこともあるので、微熱が続く、食欲・活気がないといった場合は、受診するようにしましょう。
また、症状がなくても健診で結核が見つかることもあります。特に65歳以上の方は年1回定期的な胸部レントゲン検査をおすすめします。
結核は「昔の病気」ではありません。早く気付いて受診し、治療を確実に行うことが大切です。

 


一般社団法人右京医師会 有本 晃子